運動学習を生かす
『閉ループ理論とスキーマ理論』
要点のまとめ
1.運動学習の歴史
・代表的なところで、閉ループ理論( 1971 年)、スキーマ理論( 1975年)、ダイナミカルシステム理論(1999)がある
2.閉ループ理論
・閉ループ理論:運動学習にはフィードバックが必要であり、記憶痕跡・知覚痕跡に基づいた運動学習理論
・運動学習の流れ:記録痕跡(過去の記憶)にて運動開始、知覚痕跡にて運動を修正 ※具体例あり
・弱点:運動の数だけ運動プログラムの記憶が必要、フィードバックに時間がかかり素早い運動ができない
3.スキーマ理論
・スキーマ理論:フィードバックによる修正に依存した閉ループ理論に対して、過去の経験により形成された運動プログラム(GMP)が運動のタイミングや強度を制御する理論
・運動学習の流れ:運動の経験により変容する記憶(スキーマ)に基づいてGMPを形成し、再生スキーマによりGMPを実行、再認スキーマにより動作を修正する ※具体例あり
・弱点:環境の変化によって動作が変化することを上手く説明できない(脳の処理だけでは限界があるということ)
4.スキーマ理論を踏まえて
・私の考え:スキーマは変容する記憶であり「効率化するためのパターン」「危険の予測」「思い込み・先入観」「運動のクセ」です。誤った運動や感覚などの記憶(スキーマ)がある場合はセラピストが気づかせてあげることが重要です。課題を練習する上では優れた理論と考える。
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1.運動学習理論の歴史
運動学習理論の歴史
代表的なところで・・・
■閉ループ理論( Adams JA 1971 年)
■スキーマ理論( Schmidt RA 1975年)
■ダイナミカルシステム理論(Forssberg H, 1999)
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2.閉ループ理論
閉ループ理論
閉ループ理論(Adams 1971):
「運動学習には感覚フィードバックが必要であり、記憶痕跡・知覚痕跡に基づいた運動学習」
運動学習の流れ(閉ループ理論)
運動学習の流れ(長谷 2013):
STEP1:記憶痕跡は、運動を選択し開始する機能を有する。
STEP2:実行された運動は、①知覚痕跡と照合(基準)、②学習者が検出した誤差(筋・動作)や外部からの結果(KR)に基づいて知覚痕跡を修正する。
STEP3:記憶痕跡は、運動を比較してエラーを同定する機能を有する。
※図1と例を参照下さい
■図1.閉ループ理論 Adams(1971)を参考に作成
■例:サッカーボールを蹴る場合
①過去に経験した、50m 先にサッカーボールを蹴るという蹴り動作をイメージした時に、まず記憶痕跡から運動を生成するための過去の記憶が想起される(記憶痕跡)
②その後、実際にボールを蹴ってみる(筋・動作のフィードバック)
③蹴った結果、30m までしか蹴れなかった( 結果の知識: KR)
④50m 蹴るつもりが 30m しか蹴れなかった( 知覚痕跡:運動の結果の誤差)
閉ループ理論の弱点
閉ループ理論の弱点:
・(過去したことがない)新しい運動プログラムの学習過程を説明できない
・運動の数だけ存在する運動プログラムが脳に記憶されなければならない
・フィードバックに時間がかかるため、素早い運動に対応できない
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3.スキーマ理論
スキーマ理論
スキーマ理論(Schmidt 1975):
フィードバックによる修正に依存した閉ループ理論に対して、過去の経験によって形成された運動パターンである一般化運動プログラム(GMP )が、運動のタイミング・強度を制御する開ループ制御機構
運動学習の流れ(スキーマ理論)
運動学習の流れ(長谷 2013):
運動指令やその運動による感覚的結果はスキーマとして貯蔵され、再生スキーマが要求される。運動に類似した一般化運動プログラム(GMP)を発動し、再認スキーマは実際に行われた運動の結果を評価する。
※図2と例を参照下さい
【用語の解説】
■スキーマ
運動の経験に基づいて変容する記憶
→様々な運動の経験によって「大体こんなものかな(一般化運動プログラム:GMP)」を記憶する
■再生スキーマ
過去に行った運動の結果と、現在その運動パラメータ(歩幅や歩数など)との関係
→過去の経験の記憶から「大体こんなものかな」を実行する
■再認スキーマ
過去に行った運動の結果と、現在その運動を行ったときの感覚との関係
→エラーを同定し修正する機構、閉ループ理論と似ている
■図2.スキーマ理論 Schmidt(1975)を参考に作成
■例:初めてハードルをする場合
①サッカーを練習してきた子どもは「サッカーとはこういうものだ」という心の枠組み(スキーマ)が練習の過程で形成されていく。
②その子どもが初めてハードルを見ると、「これはきっと蹴り倒すものではなく、跳び越えるものだろう(再生スキーマ)」と予想する。
③いざ飛び越えてみると「もう一歩長く助走を取った方が跳びやすかったな(再認スキーマ)」と自分でフィードバックを行える。
スキーマ理論の弱点
スキーマ理論の弱点:
・環境の変化によって動作が変化することを上手く説明できない(脳だけの処理では限界があるということ)
■例:水をこぼさないようにコップを持ち上げる場合
スキーマ理論では、正座した人が『床に置かれたコップを取り上げて水を飲む』という動作を行った時に、動作速度が変わっても、各部位のタイミングは変化しない.しかし、コップに入っている水の量をほぼいっぱいにするだけで、動作の相対的タイミングは変わる.「水をこぼさないように」慎重にコップを持ち上げるということだが、スキーマ理論はこのように環境の側の変化によって、動作が変化することを上手く説明できない.
スキーマ理論による運動学習理論の発展
スキーマとは、運動の経験にもとづいて変容する記憶のコンポーネントである
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4.理論を踏まえて
セラピストがするべきこと
私の考え:
・誤った運動や感覚がある場合は、セラピストが気づかせてあげることが重要(結果の知識、正しい運動や感覚など)
・スキーマ理論は環境の側の変化に弱いとはいえ、固定された環境で、決まった課題を練習する上では優れた理論である
■さいごに
運動学習を理解するため、運動学習の歴史の中から「閉ループ理論とスキーマ理論」を学習しました。
・閉ループ理論は「その動作を知っていないと実行できない」ということ。
・スキーマ理論は「似たような運動を知っているから、新しい運動もできる」ということ。
・スキーマとは変容する記憶であり、「効率化するためのパターン」「危険の予測」「思い込み・先入観」「運動のクセ」です。
・そのため誤った運動や感覚がある場合はセラピストが気づかせてあげることが重要であると考えます。
次回は、最近の運動学習理論である「ダイナミクスシステム理論」を学習していきたいと思います。