EBPTの実践
『EBPTの具体的な進め方』
要点のまとめ
・EBPTの本質:
エビデンスだけで臨床判断をするのではなく、エビデンスという情報を理学療法のプロセスへ利用するという方法論である
・EBPTの進め方のポイント STEP1-5:
①臨床疑問の定式化(PICO)
②臨床疑問に関する情報検索
③情報の批判的吟味
④情報の患者への適応検討
⑤介入結果の評価
・症例提示
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EBPTの進め方
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■EBPTの本質
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■EBPTの進め方のポイント
EBPTを進めるポイントには、STEP1-5がある
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■症例提示 ※理学療法協会HPより引用
-----タイトル------------------------------------------------------
【タイトル】頸椎前方固定術後に隣接関節に頸椎症を呈した症例に対する頸椎深層屈筋群トレーニングの効果
【日付】202〇年〇月〇日
【氏名】〇〇 〇〇
-----基本情報の収集---------------------------------------------
【年齢】50歳
【性別】男性
【診断名】頸椎症
【現病歴】
・左上肢の痺れが出現し、半年前に当院にて頚髄症に対して前方固定術(C4-6)を施行。
・術後に術前の左上肢の痺れは改善したが、仕事復帰すると頸部痛が出現した。
・痛みが改善しないため当院受診、C6-7の頸椎症(隣接椎間障害)と診断されリハビリ開始となる。
【既往歴】頚髄症
【その他】職業:バスの運転手
-----評価の実施-----------------------------------------------
■理学療法評価
【痛み】VAS頭部78㎜、肩甲帯79㎜、痺れ0㎜、めまい:なし、頭痛:なし
【神経学的評価】反射:正常、感覚鈍麻:なし、Supurling test:陰性、Eaton test:陰性
【頸部ROM(°)】屈曲45、伸展25、右側屈20、左側屈10、右回旋35、左回旋15
【頭頸屈曲テスト】22㎜Hg
【姿勢】胸椎後弯、前方頭位姿勢
【Neck Disability Index(以下NDI)】38%
【JOA-CMEQ】頸椎機能25点、上肢機能89点、下肢機能100点、膀胱機能94点、QOL50点
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■STEP①:臨床疑問の定式化(PICO)
-----EBPTの実践開始-----------------------------------------
【Patient(対象):どのような患者に】
・頸椎前方固定術後に隣接関節に発生した頸椎症患者に対する、
【Intervention(介入):どのような介入を行ったとき】
・圧バイオフィードバック装置を用いた頸椎深層屈筋群トレーニングは、
【Comparison(比較):何と比べて】
・一般的な理学療法と比較し、
【Outcome(効果):結果がどうなるのか?】
・頸部痛、頸椎機能、患者立脚型のアウトカムが改善するか?
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■STEP②:情報の検索
-----情報の検索開始-----------------------------------------------------------
【検索データベース】PubMed、Cochrane Library、Herbert Open Access Journals
【検索用語】「cervical spondylosis」limits;「randomized controlled trial:published in the last 3 years」で検索し計44件が抽出。
【論文選択基準】本症例のPICOに近く、介入可能な論文である下記の論文を採用。
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-----得られた情報(文献)の整理-----------------------------------------
【情報】一次情報(原著論文)
【論文タイトル】Effect of deep cervical flexors training on neck proprioception, pain, muscle strength and dizziness in patients with cervical spondylosis: A randomized controlled trial
【著者】Saleh MSM, Rehab NI, Sharaf MAF
【書誌情報】Physical Therapy and Rehabilitation. 2018; 5: 14.
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【目的】頸椎症患者に対する頸椎深層屈筋群(deep cervical flexors:以下DCF)トレーニングの効果を明らかにすること
【研究デザイン】Randomized controlled trial
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【対象】頸椎症と診断された54名中下記の基準を満たした40名
【適応基準】45~55歳、6ヶ月以上頸部痛とめまいが持続している者
【除外基準】
頸椎症性脊髄症、神経根症、腫瘍、感染、頸部の損傷または外傷、聴覚および視力障害、頸椎の先天性異常、神経疾患を有する者、良性発作性頭位めまい症、メニエール病、急性の前庭機能障害、慢性副鼻腔炎、むち打ちによる痛みおよびめまいと診断された者
【割り付け】54名中、基準を満たし同意が得られた40名を無作為に介入群20名、対照群20名に割り付け
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【介入】
・介入群および対照群の両群ともに、ホットパック、経皮的電気神経刺激(TENS)、頸部の固有感覚トレーニングを含む理学療法を週3日、6週間実施。
・介入群は前述した介入に加えて、PBUを用いたDCFトレーニングを実施。
・トレーニング中のPBU圧は、安静時の圧を20mmHgに設定し、負荷を2㎜Hgずつ上げ、最終介入時には30㎜Hgでのトレーニングが実施可能となるように目標を設定。
・DCFの収縮時間は、10秒収縮(休止3~5秒)とし、実施回数は10回とした。
・ターゲットとなる圧での筋収縮が10秒間10回実施可能となれば、負荷を上げた。
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【主要評価項目】
・頸部の運動感覚(特殊な装置Head Repositioning Accuracyを用いて測定)
・頸部痛[㎜](VAS)
・CCFT[mmHg]
・めまいの強さ[㎜](VAS)
・Dizziness Handicap Inventory:以下DHI[点](めまいによる日常生活における障害度を評価する質問紙票)
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【結果】
・全ての評価項目において両群とも介入前後で有意な改善を示した(p<0.05)。
・介入群は対照群と比較し、頸部の運動感覚障害、頸部痛、CCFT、めまいの強さ、DHIにおいて有意な改善を示した(有意水準5%)。
【結論】
・頸椎症患者に対するPBUを用いたDCFトレーニングは、頸部の運動感覚障害、頸部痛、DCF機能低下(CCFT)、めまいの改善に有効である。
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-----文献の要約----------------------------------------------------------------------------------
P:頸椎症患者において
I:通常の理学療法+圧バイオフィードバック装置を用いた頸椎深層屈筋群トレーニングは
C:通常の理学療法のみの実施と比較して
O:頸部の運動感覚障害、頸部痛、頸椎深層屈筋群機能低下(CCFT)、めまいの改善に有効である。
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■STEP③:情報の批判的吟味
・システマティックレビューなどの二次情報を得た場合は、専門家により内的妥当性が吟味されている
・そのため自分が設定したPICOと二次情報の結果との整合性の程度を確認した上で、STEP4の患者への妥当性の検討へ移行できる
・原著論文の場合は、その論文の内的妥当性を批判的吟味する必要がある
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■STEP④:情報の患者への適応検討
・情報の批判的吟味の後は、患者に適応できるかのチェックが必要である
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-----具体的な方針・方法・注意事項を検討する----------------------------------------------------------------
【具体的な方針の検討】
対象は、症状および画像診断により頸椎症と診断され、外来通院可能であり、適応基準および除外基準を満たしていた。
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【方法の検討】
・介入頻度は週2日、6週間とした。
・介入の際には、TENS、後頭下筋群および肩甲帯周囲筋群を中心にfriction massage、direct stretchを実施した。
・TENSおよび徒手的な介入に加えて、PBUを用いたDCFトレーニングを実施した。
・PBUを用いたDCFトレーニングでは、PBUを頸部後方の後頭部に接する部位に置き、症例には顎を軽く引いて頭部のうなずき運動が起こるよう指示をした。
・運動回数は、採用論文同様に10秒収縮(休止3~5秒)×10回を2~3セットとした。
・初回は安静時の圧を20mmHgに設定し、運動負荷を2mmHgとした。
・症例には、自宅でのトレーニングとして、PBUを使用しないDCFトレーニング(PBUの代わりにタオルを押し付けるトレーニング)を1日2~3セット行わせた。
・本症例は、3週間介入後に30mmHgでのトレーニングが実施可能となった。
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【注意事項】
・介入初期には、症例がDCFを正確に収縮できるように、セラピストが頭部を徒手的に誘導し、DCFトレーニングの運動方向を学習させた。
・その際に頸部の伸筋群または胸部の背筋群によりPBUの圧を上げないように注意した。
・また、症例にはDCF収縮時に胸鎖乳突筋や斜角筋の過剰収縮が起こらないよう、セラピストが触診をしながら運動を誘導した。
・来院の際には、毎回、セラピストがPBUを用いて正確なDCFトレーニングが行われているかをチェックした。
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■STEP⑤:介入結果の評価
・本症例には、DCFトレーニングを採用論文と同様の介入期間実施することができた。
・各評価時期における評価項目の結果を以下の表に示す。最終評価時には初期評価時と比較し、頸部痛VASは73㎜、NDIは-28%の改善を示した。
・この結果は、臨床的最小重要変化量(頸部痛VAS:21.4㎜、NDI:-10%)を上回る改善であった。また、頸部ROM、DCFの機能(CCFT)も改善した。
・本症例は、介入時に頸髄症の症状は無かったため、JOACMEQの上肢機能、下肢機能、膀胱機能に障害は無かった。
・JOACMEQの頸椎機能およびQOLは、初期と比較し「効果あり」と判断できる改善(頸椎機能60点、QOL25点)を示した。
(介入前)→(3週後)→(6週後)
VAS[㎜]頸部痛(78)→(41)→(5)
VAS[㎜]肩甲帯周囲痛 (79)→(38)→(4)
ROM[°]頸部屈曲 (45) →(55) →(65)
ROM[°]頸部伸展 (25) →(30) →(40)
ROM[°]頸部右側屈 (20) →(30) →(35)
ROM[°]頸部左側屈 (10) →(25) →(30)
ROM[°]頸部右回旋 (35) →(50) →(55)
ROM[°]頸部左回旋 (15) →(30) →(40)
CCFT[mmHg] (22.0) →(30.0) →(30.0)
NDI[%] (38) →(22) →(10)
JOACMEQ[点]頸椎機能 (25)→(40) →(85)
JOACMEQ[点]上肢機能 (89) →(100) →(100)
JOACMEQ[点]下肢機能 (100) →(100) →(100)
JOACMEQ[点]膀胱機能 (94) →(94) →(94)
JOACMEQ[点]QOL (50) →(64) →(75)
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■さいごに
EBPTの実践として『EBPTの具体的な進め方』について解説しました。
・EBPTはエビデンスという科学的な情報を、中立的な視点で臨床判断に利用できると考えます。
・EBPTは基本的な事項を理解していれば、すぐに臨床現場で実践することができる具体的な行動指針です。
・EBPTの実践にある「患者の意向や価値観」「セラピストの臨床能力や経験」「施設環境」に基づいた臨床判断は、日頃の臨床現場で私たちはすでに行っているはずです。やればできるはず!
詳しくは「理学療法士学会のHP」をご参照するとより理解力が深まると思います。