はじめに
整形外科でみる「疾患別」のリハビリについての評価・治療を学習していきたいと思います。
今回は首の疾患である「頸椎症」です。
「頸椎症」の概要
■頸椎症とは
加齢からくる頸椎変形、脊柱管の狭窄、ヘルニア、黄色靭帯の肥厚、外傷など(下図)が原因で神経や脊髄が圧迫され、頸・肩こりや痛み、四肢の痺れなどの症状が出現したものです。
①変形性頸椎症:椎間関節や椎間板由来の頸部痛や運動制限などの症状
②頸椎症性神経根症:神経根の圧迫による手の痺れや頸・肩の放散痛などの神経根症状
③頸椎症性脊髄症:脊髄自体の圧迫による広範囲の痺れや運動麻痺などの脊髄症状
・若年~中年者に多い椎間板ヘルニアに対し、頸椎症は中高年(50代)以降に多い
・先天的・後天的に12㎜以下の脊柱管狭窄がある人は脊髄症状がでやすい
・発症頻度の高い順にC5-6>C6-7>C4-5(高齢者では下位頸椎の可動性に低下に伴い代償として上位頸椎の発生が多い)
・最終的には全頸椎レベルに起こる
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■診断(評価)
①原因部位や変形の程度の診断:画像診断(X線、MRI)
【画像評価の例】
・X線画像:Torg-Pavlov 比(c/d)が75%以下で脊柱管狭窄と判断。C5は14.1/18.3=77.0%である。
・MRI T2 強調像:矢状断像では脊髄の C5/6 椎間で圧迫されている。水平断像では C5/6 および C6 にて脊髄が扁平化している。C5、C5/6、C6 の両側後角の位置に髄内高信号をみとめる。
②神経学的所見:腱反射、筋力、筋萎縮、痺れ、運動麻痺、歩行障害の所見
③障害の程度の評価法:ジャクソンテスト、スパークリングテスト、指離れ徴候、手指巧緻性テスト、10秒テスト
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■治療
保存療法:頸椎カラー装着、牽引療法、薬物療法、温熱療法
手術療法:前方除圧固定術、脊柱管拡大術(椎弓形成術)
【手術が適応となる所見】
①運動麻痺(手指巧緻性障害、歩行障害)や膀胱直腸障害などの脊髄症状がある
②強い疼痛がある
③著しいADL低下がある
④保存療法で改善がみられない
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障害の特徴
■頸椎症性神経根症
・主な症状:首・肩のこりや痛み、手指の痺れ、手指の巧緻性障害、感覚異常、筋力低下など
・左右非対称に障害がでることが多く、下肢には症状がない
■頸椎症性脊髄症
※神経根症状と比較して下線部の症状に違いがある
・主な症状:四肢・体幹の痺れ、首・肩の痛み、手指巧緻性障害、歩行障害、膀胱直腸障害、感覚異常など
・初期症状では、四肢のしびれと歩行障害の頻度が高い
・重症になると、四肢の麻痺が生じる
・病型の分類:クランドルの分類、服部の分類がある
【クランドルの分類】
1)上肢症状を主体とし脊髄中心部が障害されたもの
2)横断性麻痺を生じるもので、知覚、運動共に障害されたもの(最も多い型)
3)1側の運動麻痺と深部知覚障害、反対側の痛覚・温度覚の脱落
4)運動麻痺が主で、知覚障害をほとんど呈さないもの
5)上肢の痛み、下肢の痙性麻痺を有するもの
■脊髄障害部位とその症状
【服部の頸椎症性脊髄症の病型分類】
Ⅰ型(脊髄中心部障害型):上肢症状が主体のもの
Ⅱ型(Ⅰ型+後側索部障害型):上肢症状に錐体路症状(腱反射亢進)があるもの
Ⅲ型(Ⅱ型+前側索部障害型):さらに体幹・下肢の温痛覚障害が加わったもの
■障害の特徴まとめ
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神経学的検査とその所見
■頸椎症性神経根症
・ジャクソンテスト、スパークリングテストが陽性となることが多い
・神経根刺激症状として、上肢の痺れ、放散痛、感覚異常(後根)がある
・神経脱落症状として、神経支配領域に一致した、腱反射の減弱、感覚鈍麻・脱失、上肢脱力・萎縮がある
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■頸椎症性脊髄症
■錐体路徴候はあるか?
・手指の巧緻性運動障害、下肢腱反射亢進、ホフマン反射、ワルテンベルク反射、痙性歩行障害などの痙性麻痺、神経因性膀胱がある
・上肢腱反射低下は脊髄の前角細胞(灰白質)の障害を示唆し、亢進は錐体路~脊髄側索(白質)の障害を意味する
・myelopathy hand:手指の痙性麻痺で腱反射亢進、病的反射による手指巧緻運動障害が生じること。手内筋の萎縮を伴うことが多い。10秒テストや指離れテストでmyelopathy hand陽性と判断される。
■デルマトーム(皮膚分節)の知覚所見は?
・デルマトームとは1つの脊髄神経根から伸びている感覚神経が支配する領域のこと
・神経根障害であれば、一つの神経根に一つの領域の障害がでる
・脊髄損傷では、神経根が集約されて脳へ伝える脊髄の伝導路が障害されるため広範囲に知覚障害が現れる
・首の脊髄が前側方(赤矢印)から、外側脊髄視床路の仙髄→腰髄→胸髄まで圧迫されれば、頸髄領域の症状はなく、胸髄・腰髄・仙髄の領域で症状(温痛覚障害)が出現する
・MRI所見と照らし合わせて評価する
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アプローチについて
・術後早期の場合、頸部の安静を保ちつつ離床動作や変形予防、関節可動域練習を愛護的に行う
・離床に伴う座位練習では車椅子駆動も考慮される
・ステフ、オコナー巧緻性テスト、パーデューペグボードなどの巧緻性検査法はトレーニングとしても利用される
・慢性的な痛みやしびれなどの知覚症状には、経皮的電気刺激(TENS)や脱感作療法を行う
・慢性的な痛みやしびれ、運動障害に対する患者の精神的ストレスを受け止め、ADLの改善やリハビリの指導を行う
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リスク管理について
・脊髄麻痺症状が出た場合は、漫然な保存療法は不可逆的な障害を残すことになるため、手術のタイミングを逃さないようにする
・神経根症状の場合は、6-8週間程度の保存療法により軽快することが多いため、寝具の調整や頸椎カラー着用、リハビリによる頸部の安静保持を目的とした保存療法が選択される
・疼痛を誘発しないように、過度な頸部の可動域練習や筋力強化には注意する
・脊椎症患者では、頸部の伸展方向での動きで脊柱管はより狭小化する
・長時間の同一姿勢をとらないことや上を向いた状態で作業を続けないこと、適切な枕を使用することなどの日常生活面での細かな配慮が必要である
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まとめ
今回は、頸椎症の神経根症と脊髄症の違いを中心とした評価ついて主に紹介しました。
加齢により、頸椎症の3つの症状(変形性関節症、神経根症、脊髄症)が同時に発生することもあります。保存療法で脊髄症状が出現した際には、手術のタイミングを逃さないように脊髄症状を把握できるようにしておきましょう。
また、腰部脊柱管狭窄症と頸椎症が同時に発生することも多々あることから、次回は「腰部脊柱管狭窄症」について調べていきたいと考えています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。