セラピスト向け

スポーツマッサージ 「運動する『前・間・後』の効果」

本日はスポーツマッサージの『運動の「前・間・後」の効果』をまとめたいと思います。

『スポーツマッサージ』

要点のまとめ

スポーツマッサージ

・スポーツマッサージの科学的根拠:マッサージは血液循環・筋骨格系機能向上・痛み軽減・リラクゼーションの効果があるとされており、スポーツリカバリーで最も多く用いられている療法だが、アスリートに対するマッサージ効果としては多くの議論がある

・運動前のエビデンス:血流が有意に増加する実証はなく、運動前のマッサージによるパフォーマンス向上はない。ウォーミングアップの一助にはなる。

・運動間のエビデンス:マッサージのみでは効果は低いが、軽運動と併用することで疲労を軽減できる。また知覚的回復により続く運動にはプラスになる効果がある。

・運動後のエビデンス:高いレベルの疲労には効果はないが、軽運動と併用することで疲労を軽減できる。しかし、アスリートが疲労状態を過小評価してしまい、早期にトレーニングを再開することでの怪我に繋がる恐れがある。

・注意点:激しいマッサージは、筋の微細損傷を引き起こす可能性があり、パフォーマンスに影響する場合もある

まとめ

★彡

はじめに

マッサージは、血液循環や筋骨格系機能の向上および痛みの軽減、リラクゼーションを含めて、皮膚・筋・腱・靭帯に物理的および心理的な効果をもたらす可能性があるとされています。また、マッサージはスポーツリカバリーで最も好まれ用いられる方法ですが、その効果について議論されており、特にアスリートに対するマッサージ効果に関しては疑問を抱く著者も多くいます。そこで、マッサージによるスポーツパフォーマンスへの影響についてまとめました。

■「スポーツ前」のマッサージ効果

マッサージは、血流量増加により、筋温および血液の緩衝作用が高まり、組織への酸素・栄養の供給が増加することによってパフォーマンスが向上すると考えられており、試合前に実施されます。しかし、これら仮説を指示するデータは少ない傾向にあります。

【参考文献】

・マッサージ直後及びマッサージ中に血流が有意に増加することは実証されていない(Hinds 2004)

・最大運動の前に10分間のマッサージありとなしでは、運動中に測定した項目に有意な差が認められなかった(Callaghan 1993)

 ※測定項目:VO2、1回拍出量、心拍数、血圧、心拍出量、動静脈酸素較差、血中乳酸

■「スポーツ間」のマッサージ効果

スポーツ間のマッサージによって代謝物の排出は促進されません。しかし、リカバリー方法を改善(マッサージとアクティブリカバリーの併用など)することで疲労を最小限にしてくれたり、知覚的回復(メンタル)が改善されることで、続く運動に身体的にプラスになることが分かりました。また低いレベルの疲労に関しては、代謝物の除去が影響している可能性があると考えられています。

【参考文献】

・自転車エルゴメータによる5㎞の運動を2セット行う間に、アクティブリカバリー(軽運動)と比較して、マッサージ、パッシブリカバリーの場合ではよりよいリカバリーにならなかった。マッサージとアクティブリカバリーを合わせたリカバリー方法が効果的だった(Monedero and Donne 2000)※図参照

・血中乳酸、心拍数、平均パワー、最大パワーに関して有意な差はない(Robertson,Watt,and Galloway 2004)

・感覚的な疲労度、トータルパワー(Ogaiet al.2008)、疲労指数(Robertson,Watt,and Galloway 2004)は、マッサージ群がすべてにおいて良好だった

・マッサージはプラセボ効果によって激しい運動を続けることが出来る(Goats 1994)。

・ローリングマッサージを模倣したマッサージ機器を用いた時、疲労が低いレベルになった(Portero,Canon,and Duforrez 1996)

・局所的な疲労困難に至るテストにおいては、15分間安静よりも15分間マッサージした方が筋持久力と最大筋力の低下が少なかった

・自転車エルゴメータを用いて2セット実施し、セット間での圧迫マッサージありとなしで比較した結果、血液パラメータ(乳酸、pH、重炭酸、ビルビン酸、アンモニア)、酸素消費量に差がなかった。しかし、2セット目では心拍数が高いながらも45%運動パフォーマンスが維持された(Zelikovski 1993)

注意点として、運動前または運動間のマッサージについては、アスリート個々の反応はいつも同じとは限らないため、マッサージを行う際は選手の反応をみながら慎重に行う必要があるようです

■「スポーツ後」のマッサージ効果

運動後のマッサージついては、高いレベルの疲労に関しては効果は低いですが、低いレベルの疲労に関しては効果があるようです。また、こちらもアクティブリカバリーと併用することで疲労改善を高めます。

注意点として、マッサージにより疲労の状態を過小評価してしまい、早期にトレーニングを再開させることで怪我が発生する危険性を増やしてしまう可能性があるので、必ずしも有益なものと言えないとしています

【参考文献】

・ハーフマラソン後の30分のマッサージでは、1日後、4日後のいずれの最大筋力の回復を早めることが出来ない(Tiidus et al.2004)

・1日に161㎞のサイクリングを4日間以上行う自転車競技においてマッサージの効果はない(Callaghan 1993)

・マッサージとアクティブリカバリーの組み合わせによって血中乳酸が減少することが示され、血流増加により乳酸の除去が早まることを示した(Weerapong,Hume,and Kolt 2005)

・最大筋力の低下が最小限になるわけでも、リカバリーが早まるわけでもないにも関わらず、運動後にマッサージが実施されている(Barnett 2006)

・マッサージはアスリートの疼痛に対する感覚とリカバリーに有益な効果がある(Barnett 2006)

■マッサージする際の注意点

激しいマッサージは、筋の微細損傷を引き起こす可能性があり(Barnett 2006)、パフォーマンスに影響する場合もある(Callaghan 2006)ため、リカバリーの方法として用いる場合には注意が必要である

■まとめ

・アスリートに対する血流や可動域に対するマッサージの効果は明らかにされておらず、体温の上昇も皮膚表面だけに留まる

・疾患がある患者に利点があっても、必ずしも健康なアスリートにとって同様の効果が得られるとは限らない

・マッサージによりメンタル面が改善されることで、続く運動には身体的にプラスになる

マッサージは個々により反応が違うため、以前に好ましい効果が得られたアスリートに対して行うべき

・マッサージによる爽快感は続く運動をするための準備や心理的な効果(メンタル改善効果)を持っており、アクティブリカバリーと併用することで運動後の疲労を最小限にしてくれる。また、アクティブリカバリー単体よりマッサージを併用することでの疲労改善の効果が高いため、マッサージを行う意味はある。

・注意点として、高い疲労や痛みには効果は低く、激しいマッサージにより微細損傷や痛みが増悪する。また、アスリートの疲労の過小評価により早期トレーニング再開による怪我に注意する。

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