運動学習について、「①運動学習の概念を理解し、②臨床での実践に繋げていく」を目的に、学んでいきたいと思います。
前回は「スキーマ理論」について
・スキーマ理論は、運動の感覚をスキーマとして記憶し(スキーマ=思い込み・運動のクセ)、類似した一般化運動プログラムを発動し、実際に行われた運動の結果を評価する。(前記事を参照)
・スキーマ理論は、環境の変化に弱い
・スキーマ理論は、固定された環境で、決まった課題を練習する上では優れた理論である
でした。
今回は
Step3:運動学習理論(ダイナミカルシステム理論)と神経
運動学習理論②
ダイナミカルシルテㇺ理論
ダイナミカルシルテㇺ理論
「中枢神経系のような司令塔は存在せず、運動を構成する様々な要素が相互に依存しながら自己組織化され、全体のシステムが生み出されている」
〈解説のための用語〉
■アフォーダンス
環境からの刺激情報のうちにすでに提供され、固有の形をとっているという思想。
例)ヘアアイロンは人に使い方をアフォード(提供)している。「手に持つことができる」「ものを挟むことができる」「熱くなる」といった情報によって、髪をまっすぐに伸ばすことができるというアフォードを出している。それに対し、人はヘアアイロンを見て「掴むことができる」「食べ物を焼けるかもしれない」「服のシワを伸ばせるかもしれない」「髪をまっすくにできるかもしれない」という使い方をピックアップする。物が人に使い方をアフォードし、そのアフォードを人がピックアップすることをアフォーダンスという
■ニュートン力学の法則
①慣性の法則、②運動の法則、③作用・反作用の法則のこと
■自己組織化
外からの指令なしに、自律的に秩序が形成される現象
〈運動学習の流れ〉
ダイナミカルシステム理論は、アフォーダンス、ニュートン力学の法則、非線形力学における自己組織化の現象などを利用して、環境の変化への対応を説明する理論.
例1
例)歩行時の下肢の運動を「バネ付き振り子」に見立てたモデルでは、最もエネルギー効率良く歩いている時の歩行率を予測する.このモデルにおいての、歩行率の予測式は下肢長と下肢の質量、および重力加速度から成り立っている.つまり月面や宇宙空間のように、地球上とは重力加速度が異なる空間では、健常者の歩行パターンも変化するという考え方。
例2
固体ごとに異なる周波数で明滅するホタルも、集団になると同じ周波数で明滅するようになる(非線形振動子の引き込み現象)は、運動制御理論にも応用されている.
例)身長の異なる 2人が並んで歩く場合、通常は、身長の高い人は歩行率は低く、身長の低い人の歩行率は高い.しかし、この 2人が並んで歩くと自然に歩行率が揃う.どちらかに合わせるというような調整のされ方ではなく、2人の歩行率の中間あたりに、お互いに歩み寄る.
『ダイナミカルシステム理論の弱点』
・運動制御理論が強く、運動学習理論にはあまり比重が置かれていない.
運動学習理論を理学療法に取り込むために
■スキーマ理論
スキーマ理論は、運動制御の理論であると同時に、運動学習の理論でもある.G M Pもスキーマも学習によって精緻化される.スキーマ理論は環境の変化に弱いとはいえ、固定された環境で、決まった課題を練習する上では優れた理論であり、理学療法にとっても有用な方法を提供してくれる.
■ダイナミカルシステム理論
ダイナミカルシステム理論は、運動制御理論の色彩が強く、運動学習理論にはあまり比重が置かれていない.ダイナミカルシステム理論では、現実的な運動遂行場面に立てば、様々なシステムが相互作用的に機能して、その結果として合理的な運動が生み出される.極言すれば、運動制御に「過去の経験」や「練習」の積み重ねは不要ということになるのかもしれない.
■運動学理論から応用応用までの流れ(例)
文献1)より引用.
「理学療法の取り込むために」
・ダイナミカルシステム理論を理学療法に適用しようとすれば、理学療法士が介入してもしなくても患者様はそれなりの運動をする(それなりの運動しかできない)ということになりかねない
・障害を負えばそれに応じた「最適の行動」があるに違いないが、患者が独力で選択できるとは限らないため、選択に対して、理学療法士が介入する余地が生まれる
・障害が残存することを避けられない場合、何を目標に理学療法を行えば良いかを考えるとき、ダイナミカルシステム理論を応用できる可能性は高い
運動学習に伴う神経可塑性
神経系の可塑性
「運動学習によって新たな運動スキルを統合しパフォーマンスを最適化させる過程において、神経系は、機能的・構造的に変化していること」
■シナプス可塑性
神経線維が標的に向かって伸び、ネットワークを形成すること
■Hebb の法則( Hebb;1949)
2つの神経細胞が同時に発火すると、その細胞間の神経伝達は強化される
■大脳皮質における可塑性
リスザルを用いた実験にて、一次運動野の部分的脳虚血による損傷後に、エサ入れからエサをとるという課題をさせることで、麻痺手機能の改善とともに一次運動野の手領域が拡大することが確認された(Nudo;1996)
【ここまでのまとめ】
・運動学習理論には歴史があり、変化している
・どの学習理論がいいというわけではない
・「環境変化による動作変化を説明できることから、ダイナミカルシステム理論」が運動の理にかなっているが、「決まった課題を練習する上で、優れているのはスキーマ理論」であり、理学療法にとっては有用な方法である.
・以上を踏まえて、次回は、本題である「運動学習を高める具体的な方法」を提示していきたいと思います。
【引用文献】
1)大橋ゆかり:運動学習理論と理学療法の接点,愛知県理学療法士会誌(18)-2,2006.