セラピスト向け

麻痺とは? -What`s MAHI?- 運動麻痺の評価・治療

はじめに

首や腰における脊柱管狭窄症ヘルニア術後合併症等にある「麻痺」について考えていきたいと思います。
前回は「運動麻痺」についての知識を学習しました。
今回は一般的な「運動麻痺の評価・治療」を学習し、首・腰疾患別の評価・治療プログラムへ繋げていけたらと思います。

運動麻痺の評価

運動麻痺の評価を行う場合は運動神経以外の神経も障害されることが多く、随意運動や筋力の程度だけでなく、意識レベル、疼痛、感覚などの評価を行う必要があります。

■末梢神経の構造
一つの神経束は運動神経・感覚神経・自律神経の神経線維が集まりできています。
・またS1神経根1.6㎟に対して、一つの神経束の大きさは49-400μ㎡であり、多くの神経束が集まり構成されています。
・つまり神経の圧迫により起こる症状は、運動神経以外にも複数の神経が障害されている可能性が高いことがいえます。

■中枢神経(脊髄)
・画像所見にて障害部位は判断するが、近くの伝導路は一緒に障害される可能性が高い

・索路徴候と髄節徴候があり、障害部位により痙性麻痺や弛緩性麻痺が出現する

中枢性・末梢性麻痺がある場合の
共通の評価項目

意識障害の有無:JCS、GCS

バイタルサイン:血圧、心拍数

視診:姿勢、四肢の状態、筋萎縮など

触診:筋緊張、随意運動、筋力など

動作観察:寝返り、起き上がり、立ち上がり、歩行など

■コミュニケーション能力に関わる高次機能障害の有無

■筋に関わる検査
筋緊張(筋トーヌス):MAS
筋萎縮
→①筋疾患:近位筋から萎縮が始まり、感覚障害を伴わない
→②末梢神経障害:遠位筋から体幹に萎縮が広がり、感覚障害を伴う
→③ALSなど神経原性筋萎縮:感覚障害を伴わない
・触診・視診:左右の筋を比較し変形・腫脹・圧痛の有無

反射検査:深部腱反射、病的反射(上肢:ホフマン、下肢:バビンスキーなど)

感覚検査:表在感覚(触覚・痛覚・温度覚)、深部感覚(位置覚、振動覚)、複合感覚(立体認知、2点同時識別覚、皮膚書字試験)

■姿勢:臥位、座位、立位の安定性や片側への傾斜

基本動作:起居動作、起立動作、歩行状態

■運動機能

■ADL:移動、食事、排せつ、清潔、更衣など

関節可動域:ROM-T

中枢性麻痺の評価項目

中枢性麻痺の回復は、共同運動から個々の運動の分離といった質的な変化を踏まえた評価項目です。

軽度不全麻痺の徴候:バレー徴候、ミンガッツィーニ徴候、第5指徴候

共同運動の基本的パターン

■片麻痺の回復段階:共同運動を呈する完全麻痺の段階から、共同運動が軽減して分離運動が出現し正常に至るまでの過程
ブルンストロームテスト:片麻痺の回復段階を6段階で評価

末梢性麻痺の評価方法

末梢性麻痺の回復は、筋力の増強といった量的な変化を踏まえた評価項目です。

徒手筋力検査(MMT):障害部位や程度の評価と共に、どの筋力増強練習が必要かをみる

握力検査:手指屈筋群の握力(粗大筋力)を評価

末梢性麻痺と中枢性麻痺の回復過程の違い

・量的変化か質的変化か

・末梢神経麻痺の回復は量的に変化する
・中枢神経麻痺の回復は質的に変化する
グレード0:完全麻痺
グレード1:連合反応・痙性・固縮の出現
グレード2:筋収縮の出現
グレード3-5:異常共同運動の出現と増加
グレード6:異常共同運動の完成
グレード7-11:個々の運動の分離独立
グレード12:ほぼ完全な回復
・回復が順調に進んだ場合の模式図である。

・髄鞘形成するグリア細胞の違い
グリア細胞とは、栄養供給や髄鞘形成など神経細胞のサポートをする役割がある
中枢神経と末梢神経でグリア細胞に違いがあり、中枢神経はオリゴデンドロサイトで、末梢神経はシュワン細胞である
シュワン細胞がある末梢神経の方が回復しやすいといわれている

評価→アプローチ

関節可動域練習・ストレッチ:痙性でも弛緩性麻痺でも拘縮は起こりやすく、拘縮予防には早期より介入が必要

随意運動が困難な場合の運動療法

制御運動:単純反復運動、促通運動、脊髄反射の利用、ルード法、ボバース法、ブルンストローム法、PNF、ボイタ法など

バイオフィードバック
・無意識に調整されているものを意識化し、自分自身の身体をコントロール・調整すること
鏡、重心動揺計、表在筋電図、関節角度計などを用いる方法がある

電気刺激療法
治療的電気刺激療法(TES):脱神経疾患、関節外傷に伴う廃用性筋萎縮予防、中枢性麻痺の痙性治療に用いる
機能的電気刺激療法(FES):末梢の運動神経や筋にコンピュータ制御の電気を流し、歩行などの動作獲得に用いる

協調性運動
・協調性とは1つの動作を円滑に行うために複数の筋が収縮・弛緩し、調和のとれた運動をすること
・随意運動の消失、異常な筋緊張により協調性障害が起こるため、バランスや反射能力へアプローチ

筋力増強運動:運動麻痺による筋力低下に対して、徒手抵抗や器具を用いて回復する
・中枢性と末梢性の麻痺は異なるため、中枢神経麻痺においては共同運動が増加し回復の妨げにならないように注意する

リスク管理

急性期
・症状や術式により安静度(ベッドアップ制限、運動量制限、頸部の固定など)や禁忌事項があるため医師に確認する
全身状態を管理(血圧、呼吸、循環、熱、意識レベルなど)
転倒や過伸展で脊髄が損傷され、症状が急変することがある

異所性骨化
・本来骨形成がない部位で骨形成がみkられること
・麻痺患者に多く、麻痺域の関節周囲筋や腱において、原疾患発症後1年以内にみられる
・発症機序は明確ではないが、出血や血腫が関与すると考えられており、急性期における過度の関節可動域運動に起因する
・好発部位は股・膝・肘関節で、関節痛や腫脹、関節可動域制限が生じる

回復期
・起立性低血圧や、過負荷運動により過用性筋力低下に注意する

まとめ

今回は、一般的な運動麻痺の評価と治療について紹介しました。
中枢性麻痺と末梢性麻痺の評価違いを分けるポイントは、麻痺の回復過程が質的か、量的かの違いでした。また運動麻痺の評価を行う場合は、随意運動や筋力の程度だけでなく、意識レベル、疼痛、感覚などが同時に障害されることも多く、評価を行う必要があります。
疼痛・感覚レベルの評価や回復過程に関しても学ぶ必要がありそうです。
次回は「頸椎症」について、症状や評価・治療内容を調べていきたいと考えています。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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