運動学習を生かすための方法
『記憶』
要点のまとめ
・記憶とは覚える過程
・記憶の流れは主に、入力→視覚・聴覚で感覚記憶(0.4~5秒)→選択的注意で短期記憶へ(1分)→銘記して長期記憶へ(半永久的)→検索→出力
【感覚記憶】
・聴覚・視覚の感覚器官ごとに存在する保持時間の非常に短い記憶
【短期記憶】
①作業記憶・ワーキングメモリ―(短い時間で情報を保持し同時に処理、会話・計算など)
【長期記憶】
①エピソード記憶(個人に特有の経験、出来事、思い出)
②意味記憶(学習によって得られる一般的知識)
①手続き記憶(体に覚えている運動技術、自転車など)
②プライミング記憶(先の刺激が後の刺激に影響を与える)
③条件付け(与えられる刺激に反応、環境に変化で頻度が変化)
【記憶の定着】
・エクササイズ直後には運動スキルが定着しにくい期間があり、その期間を超えると運動記憶は安定する
記憶とは覚える過程(符号化→保存→検索)である
パソコンで例えると、データ入力→保存→データ出力
※下図参照
-例-
①銘記(符号化):明日のテストに向けて○○の定義を覚える
→パソコンでいうとデータ入力
②貯蔵(保存):時間がたっても思い出せる
→パソコンでいうとメモリー保存
③想起(検索):テスト中に「○○の定義は…」と思い出す
→パソコンでいうとデータ出力
■記憶の情報処理モデル
記憶の処理モデルは、主に入力→感覚記憶→選択的注意→短期記憶→銘記→長期記憶→検索→出力である
※下図参照
-補足-
①感覚記憶:短期記憶に送るという注意を向けないとごく短時間で消失する
→視覚で0.5秒、聴覚で4-5秒
②短期記憶(ワーキングメモリ=作業記憶):短期期間に貯蔵されている情報はいつでも利用可能
→保存時間は1分ほどと短時間
③長期記憶(情報の貯蔵は半永久的):陳述記憶、非陳述記憶の保存方法がある
→いったん形成されると長期的に貯蔵される
■長期記憶の分類
長期記憶は、陳述記憶と非陳述記憶に分類される
陳述記憶:
①エピソード記憶(個人に特有の経験や出来事など)
②意味記憶(概念、言語の意味など)
非陳述記憶:
①手続き記憶(体に覚えている運動技術)
②プライミング記憶(先の刺激が後の刺激に影響を与える)
③条件付け(与えられる刺激に反応/環境に変化で頻度が変化)
-補足-
①陳述記憶(記憶内容を言葉で表現できる)
・エピソード記憶:個人的な体験やイベントの思い出
→加齢の影響を受け易い
例:「時計」という言葉から想起される「中学生に入学した時に両親が腕時計を買ってくれた」という記憶や、そこから連想される具体的な思い出が出来事記憶に相当する。単一の情景だけでなく「社会人になって自分の給料で腕時計を購入した」といった時間的につながりのある思い出やそれに付随する感情・情動も出来事記憶に含まれる。さらに「祖父の家の掛け時計」や「駅前の時計店」などさまざまな記憶を回想できることから、出来事記憶は極めて恣意的な記憶と解釈されている。また、出来事記憶の内容は個人的なエピソードに係る情報であり、真偽性を検証することは難しい場合が多い
・意味記憶:客観的な事実・知識・情報など学習によって習得される一般的な知識や教養
→加齢の影響を受け難い
例:専門用語、客観的な事実・情報、意図的な学習によって習得される一般的な知識
②非陳述記憶(無意識の経験など言葉で表現できない)
・手続き記憶:水泳や自転車の運転など必ずしも意図せずに習得した技量や技術に係わる記憶
→加齢の影響を受け難い
→認知症でも若い頃に修得した手続き記憶は相対的に保たれることが多い
例:自動車、自転車の運転、裁縫など若い頃に修得した技量・技術
・プライミング記憶:先に与えられた刺激が、後から与えられた刺激への反応に無意識のうちに影響を与えること
→無意識のうちの起こる
例:被験者に、最初に「富士山」と云う単語を提示し、次に「阿蘇山」を読ませたときの方が、「国会議事堂」の後に「阿蘇山」を読ませたときよりも反応時間が短くなるという実験結果があり、前後の単語に意味的に関連性のある場合に、反応時間が短縮し、意味の理解が速くなる現象
・条件付け:
①古典的条件付け:与えられる刺激に自然に反応する
例:古典的条件付けは、実際に梅干を口に入れなくても、梅干を見たら、唾が出るという現象
②オペラント条件付け:自分が行動した直後の環境の変化に呼応し、その行動を繰り返す頻度に変化が生じること
例:勉強をしているときには誰からも叱れないが、勉強をやめたら叱られると云う環境下では、叱られるという不快な刺激を避けるために、勉強すると云う行為が強化され、勉強の頻度が増す
■記憶の定着
エクササイズ直後は運動スキルが定着しにくい一定期間があり(類似課題の干渉を受けやすい)、その期間を超えると運動記憶は安定する
-文献-
Brashers-Krug らの実験
【実験内容】
・ロボットアーム操作指導をした直後に干渉課題した群と、4時間後に干渉課題した群でどちらの記憶が保持されていたか
※干渉課題とは前の記憶を消させる課題のこと
【結果】
・4時間後に干渉課題した群が、有意に干渉課題の影響を受けなかった
・また6時間以上あけて干渉課題をした場合でも、干渉課題の影響を受けなかった
■さいごに
運動学習を臨床で生かす方法として『記憶』について解説しました。
・記憶は覚える過程で、パソコンで例えると入力(銘記)→保存(貯蔵)→出力(想起)です。
・視覚よりも聴覚の方が少し長く記憶がしやすいこと。
・注意して記憶しようとしなければ、短期記憶に移行できないこと。
・長期記憶には、思い出、知識の学習、習得した技術などの記憶の仕方を知りました。
・運動スキルの保存には、運動直後は類似課題や多くの課題を与えすぎないように注意してみましょう。
次回は、運動学習を臨床で生かす方法の『練習条件』について解説していきます。