要点のまとめ
運動学習を生かすための方法『学習の転移』
・転移とは、ある学習が、似ている課題の学習に影響を与えること
・転移には、①正の転移(学習の促進)と②負の転移(学習の妨害)の効果がある
・学習の転移には、運動する前後にどんな運動をしていたかが関与する ※4つの例を参照
・運動指導の実践では、何が転移されるかの把握が大切で、負の転移が起きる条件をできるだけ排除し、効果的な正の転移を起こすことを計画する
・具体的には、①負の転移が起きる条件を見つけて解決策を考える、②転移可能な技術的要素があるかを考えるである
・両側性転移(上下肢における左右間での効果の波及)は、リハビリが実施できない期間中の患部に応用できる
1.学習の転移
ある学習が、類以した課題の学習に影響を与えること
■正負の転移
①正の転移:
前学習が、類以した課題のスキル学習に促進的な効果を及ぼす場合②負の転移:
前学習が、後学習に良い影響を与えず、むしろ学習を妨害する場合
-例:正の転移-
①野球経験者に対するテニスのサーブ指導の場合
・過去に野球の経験があれば、体をひねってオーバースローで投げる動作で行わせる指導をした
※テニスボールの打点位置等、微調整は必要だが、サーブ技術獲得の手助けになる
→前学習である野球が、後学習であるテニスのサーブを促進している
②鉄棒のけあがり指導の場合
・日常生活の運動から類似した動きを探り、「ズボンをはくように鉄棒をひきつける」と指導した
→前学習である日常生活の運動が、後学習である鉄棒のけあがりを促進している
※日常生活の運動は、過去に類似した動きを持つスポーツ歴がない場合でも対応できる
-例:負の転移-
①卓球経験者に対するテニスのストローク指導の場合
・卓球独自の腕や手首の動きが強調され、ストロークが身に付かない場合がある
→前学習である卓球が、後学習であるテニスのストロークを阻害している
②普段は3動作杖歩行でしている患者の場合
・リハビリ中では2動作杖歩行を練習するも、リハビリ後は普段慣れている3動作杖歩行で病室に戻っていく
→前学習である3動作杖歩行が、後学習である2動作杖歩行を阻害している
→また日常生活での3動作杖歩行が、リハビリ時間の2動作杖歩行を阻害する
■運動指導(学習の転移)の実践
運動指導の実践において、何が転移されるかの把握が大切で、負の転移が起きる条件をできるだけ排除し、効果的な正の転移を起こすことを計画しなければならない 塩野(1998)
■両側性転移
上下肢において左右の間で効果が波及する現象
(例:日常において、誰しも非利き手でも文字が書けるなど)
■さいごに
・運動学習を臨床で生かす方法として『運動の転移』について解説しました。
・運動指導のリハビリ現場において、運動技術の習得が遅い、又は、停滞していると判断した場合、セラピストは様々な観点から運動課題を達成させる手段を考えます。
・その際に、学習者の過去の日常生活動作や、スポーツ歴から、習得をしようとしている技術と類似した動きを導き出し、その提示を行うことを指導します。
・運動指導の実践では、①負の転移が起きる条件を見つけて解決策を考える、②正の転移のため転移可能な技術的要素があるかを考える必要があると考えています。
・次回は、運動学習を臨床で生かす方法の『注意と記憶』について解説していきます。