セラピスト向け

運動学習を臨床で生かす方法(Step6:フィードバック)

 

本日は運動学習を臨床で生かすための方法『STEP6:フィードバックの方法』について解説したいと思います。

 

要点のまとめ

1.フィードバックについて

・フィードバックとは、エラーを修正し、目標の運動に近づける役割があります。

・フィードバックには、内在的フィードバック(自身の感覚情報)と外在的フィードバック(人工的な情報)があります。

・運動後の数値など量的な情報(KR)が運動・技能学習に役に立ち、動作のコツなど質的な情報(KP)がパフォーマンスの向上に貢献します。

・エラー情報を本人が認識しない限り運動学習は成り立ちません。

・運動初期は外在的フィードバック、最終的に内在的フィードバックで運動が遂行できるようにしましょう。

 

2.効果的なフィードバックの与え方

・①~⑤の手順でフィードバックを行うことで、効果的な運動学習が可能と考えています。

①フィードバックの内容は学習者が制御可能なものを選択すること。
②フィードバックは基本1つで伝えること。
③運動後2~3秒以上あけてフィードバックを行い、フィードバック後2~5秒以上開けて再度運動させること。
④フィードバック産出依存性と運動不安定の現象を軽減させるため、学習者にあわせて3種類の方法からスケジュールを立てること。
⑤初期には視覚的フィードバック、徐々に聴覚的フィードバックへ移行させて円滑な運動学習を進めること。

 

さいごに

1.フィードバック

■フィードバックとは

『目標値とパフォーマンスとの差のこと。エラーについての情報(誤差情報)のこと。』

フィードバックは運動を修正し目標に近づける役割をもち、運動に対するモチベーションを与えます
→エラーがなくなって、目標値に達成すれば、それ自体が報酬(モチベーション)となり、さらに練習に打ち込むことになります

 

フィードバックは運動学習を行う上で必要不可欠です。エラーがあるところに学習があります。

 

■フィードバックの種類

フィードバックは2種類ある

①内在的フィードバック
②外在的フィードバック

以下にその内容を解説していきます。

 

■①内在的フィードバックとは

『内在的フィードバックとは、運動の実行によってもたらされる情報のこと』

→学習者の運動そのものから得る、自身の感覚情報です(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・固有感覚・前庭など)

たとえば…逆上がりをしている最中は自分にしかわからない感覚です

 

■内在的フィードバックを得られる時期

①同時フィードバック:運動を行っている最中に得られる
②即時的フィードバック:運動直後に得られる
③最終フィードバック:運動後に得られる運動中の感覚情報を思い出すなど

『内的フィードバックとは、課題が上手くできたと感じれば報酬、失敗したと感じればエラー情報となる』

たとえば…患者が上手く歩けた(もしくは失敗した)と感じれば、その時の感覚情報が内在的フィードバックとなり、 運動が修正され、強化され、運動学習が生じます

 

【感覚障害の患者の場合はどうなるか?】

感覚障害をもつ場合は、内在的フィードバックが受け取りにくいので、感覚障害のない部分で代償することで運動学習を図ります。

例)麻痺側足底に重度感覚障害があったとしても、麻痺側の膝、股、体幹に伝わる感覚情報によって代償する

上記の場合には、内在的フィードバック以外にも、外在的フィードバックを活用することが有効な手段となります

 

■②外在的フィードバックとは

『外在的フィードバックは、何らかの人工的手段によって学習者に戻される情報のこと』

外在的フィードバックには、①視覚的フィードバック、②聴覚的フィードバック、③触覚的フィードバックがあります。

 

■外在的フィードバックを得られる時期

①同時フィードバック:運動を行っている最中に得られるハンドリングなど
②即時的フィードバック:運動直後に得られる
③最終フィードバック:運動後に得られる

伝えるフィードバック内容には2種類ある
・KR(knowledge of results):結果の知識
・KP(knowledge of performance):パフォーマンスの知識

【KR(結果の知識)】
環境目標に対する行為の成功についての言語情報
(競技後のセラピストから受けた点数や数値などのこと)

 

【KP(パフォーマンスの知識)】
運動の質に関する情報
(運動が成功したかどうかではなく、運動のパターンが成功したかについてのフィードバック)

 

これまでの研究から明らかなのは、運動後の量的な情報(KR)が運動・技能学習に役に立ち、さらに精巧なフィードバックや運動のコツなど質的な情報(KP)がパフォーマンスの向上に大きく貢献していることあげられています。

 

■内在的フィードバックと外在的フィードバックの関係

『学習者が、内在的フィードバックによって自身のパフォーマンスのエラーを検出できない場合に、理論的には外在的フィードバックによってエラー情報が与えられない限り目標とする運動学習は生じない

例として、右側のスマホ立位など、本人は普通に立っているつもりであって内在的フィードバックはエラー情報になっていません。写真や鏡などにより、視覚的な外在的フィードバックを受け取ることで初めてエラー情報を認識できるようになります。セラピストからのフィードバックは重要になりますね。

 

■内在的フィードバックと外在的フィードバックの実践

『正しいエラー情報を提供できるようセラピストは配慮する必要がある』

【情報提供の配慮のポイント】

学習の初期段階において外在的フィードバックは必要であるが、最終的には内在的フィードバック(自身の感覚)で運動が遂行できるように外在的フィードバック(人工的な情報)を減らしていく必要があります

 

外在的フィードバックを減らして『セラピストからの卒業』をめざしましょう

 

■外在的フィードバックの問題点

外在的フィードバックを与えすぎると・・・

①フィードバック産出依存性
→毎回外在的フィードバックを与えられると、それを頼りに運動修正するようになり、フィードバックがなくなると途端に運動コントロールできなくなる

②運動不安定
→学習が進んでズレが小さくなった状態にもかかわらず、毎回外在的フィードバックが与えられすぎると運動はばらつき不安定なものになる

与えすぎはいけませんが、学習の初期段階においては、外在的フィードバックは必要です

 

2.効果的なフィードバックの与え方

■効果的なフィードバックの与え方の手順

①フィードバックの内容
②フィードバックの量
③フィードバックのタイミング
④フィードバックのスケジュールを立てる
⑤フィードバックのデザイン

 

■①フィードバックの内容

『フィードバックの内容は学習者が制御可能なものを選択する』

例えば…膝伸展のMMT2の方に座位で膝伸展課題を課した場合、膝の伸展角度についてフィードバックしても対象者が制御できないため意味がありません。目標課題とのギャップを埋める運動自体が、学習者にとって制御可能であるのかを確認する必要があります

 

■②フィードバックの量

『フィードバックは基本的に1つにした方がよい(特に初心者の場合は1つずつ確実に)』

一度に多くのフィードバックをしてしまうと運動修正の処理が追いつかなくなります。学習が進んでいれば、徐々に量を増やしてみましょう

 

■③フィードバックのタイミング

①遅延フィードバック:試行とフィードバック付与までの時間間隔
→試行した内在的フィードバックを脳内で処理している状態

②遅延フィードバック後:フィードバック付与から再試行までの時間間隔
→外在的フィードバック内容と試行時の内在的フィードバックを照らし合わして次の運動計画を立てている

『運動後2~3秒以上あけてフィードバックを行い、フィードバック後2~5秒以上開けて運動すると効果的である』

 

■④フィードバックのスケジュールを立てる

①漸減的フィードバック
②帯域幅フィードバック
③要約フィードバック
*以上3種類の方法を使い分けて、フィードバックのスケジュールを立てる

『(3種類いずれかの)外在的フィードバックが、フィードバック産出依存性と運動不安定の現象を軽減する方法となる』

【①漸減的フィードバック】
→全試行中の何試行ごとに1回FBを与えるかを設定し、そこからFB回数を徐々に減らしていく方法

例えば…100%FB(100回すべての施行後にFB)から開始し、50%FB(2回に1回のFB)→20%FB(5回に1回のFB)といったようにFBの割合を減らしていく方法です

 

【②帯域幅フィードバック】
→運動の目標値から許容できる範囲を決めておき、運動が規定範囲以外となったときのみFBを与える方法

例えば…荷重練習で70%することを荷重目標とし、許容範囲を±5%とした場合、65~75%のときはFBを与えず、50%のときはFBを与える方法です。FBがないことが自体が成功なので、本人にとっては報酬となります。

 

【③要約フィードバック】
何試行かに1回FBを与え、その際にすべての試行に関しるFBを行う方法

例えば…5回連続で荷重練習をし、5回分の結果を1回のFBとして与える方法であり「1回目と2回目は少なく、3回目と4回目は適切、5回目は多かった」と伝えます。

【文献】毎回FBは練習結果は良いが保持テストが悪く、要約FBは練習結果は悪いが保持テストが良かった 。Winstein & Schmidt(1990)

 

■⑤フィードバックのデザイン

『学習初期には視覚的フィードバックを用い、徐々に聴覚的フィードバックへ移行すると円滑な学習効果が得られるとされているが、課題の特性と難易度によってどのフィードバックが適切か検討する必要がある』

 

さいごに

運動学習を臨床で生かす方法として『フィードバックの方法』について解説しました。

臨床現場では、セラピストは多くのフィードバックを行うと思います。
冒頭に『要点のまとめ』がありますので再度復習し、実践してみてはいかがでしょうか。

次回は、運動学習を臨床で生かす方法の『転移』について解説していきます。

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