要点まとめ
1.腰椎椎間板ヘルニアとは?
・椎間板の退行変性に運動負荷が加わることで、髄核が線維輪から周囲に脱出した状態
・脱出した髄核が腰椎の靭帯や神経根を圧迫し、腰痛・下肢痛・感覚低下が出現する
・正中ヘルニアにより馬尾神経が圧迫されると膀胱直腸障害が出現する
2.どのような症状がでる?
・痛み(腰痛・下肢痛)、下肢筋力低下、下肢感覚障害、膀胱直腸障害、歩行障害(間欠性跛行)
3.どのように評価する?
・SLRテスト、FNSテスト、下肢深部腱反射(膝蓋腱・アキレス腱)、感覚検査(表在・深部)、MMT
4.どのような治療方法がある?
・痛みが落ち着く期間(数日~1週程度)は安静、その後腰部の筋緊張緩和を目的に物理療法やマッサージを行う
・コルセットの装具を用いることも多い
・再発防止のため運動療法(主に股関節ストレッチ、体幹・股関節の筋力強化)が行われる
5.注意すべきことはなに?
・運動療法では、過度な腰椎伸展・屈曲でヘルニア症状の悪化させる危険がある
・脊柱管狭窄が強い場合は腰椎伸展に注意する
・長時間の座位・立位、物を持ち上げる姿勢など、腰椎に負担をかけない生活を行う
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1.腰椎椎間板ヘルニアとは?
■腰椎ヘルニア
・椎間板を構成している髄核が、周囲を取り囲む線維輪からはみ出した状態
・はみ出す位置は、後方や後外側に多く、前方や椎体内にも脱出する
【図1:腰椎ヘルニア】
■発生機序
・椎間板の変性は10歳代後半から始まる
・髄核・椎間板の弾性がなくなり、線維輪に亀裂が生じる
・椎間板に反復して力が加わると、線維輪の亀裂から髄核が押し出されてヘルニアとなる
・感覚終末を多く含む後縦靭帯や神経圧迫、圧迫による炎症を起こすことで、腰痛・下肢痛を生じる(図1)
・疼痛に関しては、ホルモン・体質・ストレスなどの多くの因子が関わる
・転倒や重量物の持ち上げで誘発されることがよくある
・好発年齢は男女ともに20-40代に多く、男性に多い
■発生部位と分類
・L4-5 > L5-S1 の椎間板で多い
・脱出部位は後外側に多い(後外側の線維輪は他部位より荒く弱いため)
・脊柱管を圧迫する正中ヘルニアでは馬尾神経症状(膀胱・腸・性機能障害など)が生じる
【図2:ヘルニア脱出部位による症状の違い】
・ヘルニアの脱出方向は椎間孔内、椎間孔外、椎体内の3つで、ほとんどは椎間孔内
・椎間孔内は正中型、後外側型、外側型の3つ、椎間孔外は超外側型、椎体内はシュモール結節と呼ぶ
・後外側型(図2:①)は神経根の外側に脱出した状態(L4/5ではL5神経根症状)
→ヘルニアの70-80%
・正中型は後方に脱出した状態(腰痛症状が多く、馬尾神経症状が出やすい)
→圧迫に伴い神経がスペースに逃げて圧迫が起きないこともある、ヘルニアの15-20%
・外側型(図2:②)は後外側型よりも少し外側に脱出した状態(L4/5ではL5かL4神経根症状)
→強い神経症状が出ることがある、稀
・超外側型(図2:③)はほぼ真横に脱出した状態(L4/5ではL4神経根症状)
→強い神経症状が出ることがある、稀
・シュモール結節は椎体内の上下方向へ脱出した状態(無症状や椎間板性の腰痛が多い)
■診断
・ヘルニア発生位置と障害を受けている神経根は「問診・姿勢・歩行・理学検査による理学所見・神経所見」でほぼ推測できる
■治療法
・急性期は対処療法(安静療法、寒冷療法、薬物療法、神経ブロック、持続的牽引療法)
・痛みが落ち着けば保存療法
【保存療法】
①物理療法
②運動療法
③装具療法
※保存療法で3ヶ月以上たっても効果がない場合には手術を検討することもある
※急激な運動麻痺、馬尾神経症状がある場合、時間がたつと不可逆的なものになるので速やかな手術が必要となる
【手術療法】
・椎間板切除術
①内視鏡(MED)
②直視下(LOVE法)
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2.どのような症状?
■痛み・痺れ
・後縦靭帯や神経根が圧迫され、あるいは圧迫による炎症を起こすことで痛みや痺れが生じる
・発症部位は腰部だけでなく神経根の領域である下肢に広がる
・症状は片側に多い(場合により両側性もある)
・痛みは安静時に消失・減弱し、運動時に出現・増悪する
※腰痛や下肢に痛みは感染症・腫瘍・がんでも生じるが、鑑別として安静時痛の有無がある
※加齢による変形性脊椎症では、疼痛は姿勢や運動に伴って出現し安静時に軽減する
■感覚障害・筋力低下
・表在感覚の消失、深部腱反射の消失がみられる
・どの神経根の圧迫されるかにより、症状の現れ方は異なる
・下肢に力が入らない、段差につまづく、つま先立ちができない、スリッパが脱げるなどの下肢筋力低下が見られる
■膀胱直腸障害
・正中型のヘルニアにより神経管内の馬尾神経が圧迫されると出現することがある
・排尿障害、頻尿、残尿感、便秘などが起こる(排尿中枢はS2-4)
■間欠性跛行
・歩行中に下肢の痛みや痺れなどの症状が強くなり歩行が続けられないが、前屈姿勢をとることで症状が消失・軽減し、再び歩行できるようになる歩行障害のこと
※間欠性跛行は閉塞性動脈硬化症や閉塞性血栓血管炎でも見られる
※上記の血管性疾患による間欠性跛行は、一定の距離で痛みが出現し休憩すると歩行できる特徴がある
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3.評価
■理学検査
【SLRテスト】
・坐骨神経の疼痛誘発テスト
・70°以下で疼痛がする場合を陽性(ラセーグ徴候)
・L4-5、L5-S1ヘルニアが疑われる
【FNSテスト】
・大腿神経の疼痛誘発テスト
・90°以下で大体前面に疼痛がする場合を陽性
・L3-4ヘルニアが疑われる
【Kempテスト】
・椎間孔の狭小化させ、神経根を刺激させるテスト
・患側では下肢痛が誘発される
・ヘルニア、脊柱管狭窄症、側弯症の神経根障害で観測される
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■神経学検査
【下肢深部腱反射】
・膝蓋腱反射(PTR)とアキレス腱反射(ATR)がある
・PTRの低下・消失は、L2、L3、L4神経根障害
・ATRの低下・消失は、S1、S2神経根障害
【感覚検査】
・筆・ペンを用いた表在感覚の検査
・音叉(振動覚)、指などを動かす(位置覚)ことでの深部感覚の検査
【筋力テスト】
・正確な検査には個々の徒手筋力検査(MMT)を用いる
4.治療
■急性期:楽な姿勢での腰部の安静(セミファーラー肢位)
■物理療法:温熱療法、牽引療法、TENS、超音波療法による筋緊張の緩和
■運動療法:再発防止のための筋力強化、ストレッチ(大腿四頭筋・腸腰筋)
■装具療法:腰仙骨の支持のため軟性コルセットを用いる
5.注意すべきこと
【姿勢による椎間板内圧の変化】
■長時間の同じ姿勢、体幹の前屈動作を避ける
・座位・立位での前屈運動は椎間板にかかる内圧が増加する
■物を持ち上げる姿勢を変える
・腰椎の過度な伸展・屈曲はヘルニアを悪化させる
まとめ
整形疾患である『腰椎椎間板ヘルニア』について解説しました。
・腰椎ヘルニアは、椎間板への内圧増加により髄核が脱出することで腰痛や、神経を圧迫することで下肢痛・痺れ・感覚障害が出現する
・脱出部位により、圧迫される神経根は異なる
・多くは後外側型で、L4/5であればL5神経根症状が出現する
・正中ヘルニアなどにより、馬尾神経症状が圧迫される場合にはL4/5でもS2-4の排尿障害や神経根症状が発生する
・ヘルニアの再発予防には、姿勢による椎間板内圧への配慮が必要である
詳細の検査の詳細はリンクからご参照下さい
適宜、腰椎椎間板ヘルニアに関する検査・治療・知識を追加していきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。